人材育成成果

社会・文化領域

人材育成:支援スキーム:調査研究支援スキーム(学生)

朴 修慶(Sookyung PARK) / 調査地域: オーストラリア・シドニー

2008.12.02

渡航地(国・都市名)

オーストラリア・シドニー
:シドニー日本クラブ、シドニー韓国人会、移民関連コンサルティング会社などを訪問・事情聴取

リサーチ目的

本調査の主な目的はシドニー日本クラブ、シドニー韓国人会、それに移民業務関連専門家などとの聴取調査を通じて、シドニーにおける日本と韓国からの高齢移住者の動向を把握し、実際に両国からの高齢移住者とのインタビュー調査を通じて、彼らの老後や家族主義価値観に対する意識調査を行うことである。

これは、高齢移住者らの老後や家族観に対する意識の変化などにより、高齢者に対する扶養や社会福祉などの役割が家族から社会へと広がっていることを考えると、今回の高齢移住者のように、その役割が一国ではなく、海外にまで拡大していることが想定できる上、これらによる諸問題などを解決していくためには、送出・受入国の双方向・多方向の協力は益々重要な課題になると思う。

研究課題

 今回調査の第一の課題としては、前回のマレーシア・ペナン島における高齢移住者との調査に続き、今回はオーストラリアにおける高齢移住者との調査を行うことである。オーストラリアを対象地域として選定した理由は、前回のマレーシア調査の結果から鑑み、マレーシアにおける高齢者による引退移住は恵まれている気候、低廉な生活費用などに引き付かれ、アメニティを求めてマレーシアで老後生活を送るケースが多かったが、その地域がオーストラリアだとすると、どのような特徴や類似・相違する結果を見せるか、などを把握することである。

 第二の課題としては、オーストラリアでの高齢移住者などとのインタビュー調査を行い、彼らの老後に対する考えや、親子関係といった家族主義価値観などを把握することである。加齢に伴い、住み慣れた居住地域から他の地域へと移ることを躊躇するとの「定住」意向が強いと言われるものの、高齢となってから、なぜ、日本や韓国の国内ではなく、海外へと移住するのか、ということから、海外への高齢者移住と家族主義価値観との関係に基づき、家族観の変容が高齢者移住の背後にあるのではないかという研究仮説に基づき調査を行い、その関係を導く。

成果

まず、高齢者移住に関する先行研究などの分析によると、その移住の目的によるタイプとしては、第一、依存を求めての移住(Dependency migration)、第二、帰農・帰郷移住(Rural return migration)、第三、介護施設への移住(Caring migration)、第四、アメニティを求めての移住(Amenity migration)などとして大別できる。今回の調査の成果としては、第一として、移民関連コンサルティング会社などとの事情聴取や、日本からのインフォーマント(3人)・韓国からのインフォーマント(3人)との聴取結果によると、シドニーでの高齢者の移住タイプは、「依存を求めての移住」が多かったことが上げられる。この点は主に「アメニティを求めての移住」が多かった前回のマレーシア調査の結果とも異なる特徴として、今回インフォーマントの成人子女が結婚などの形で既にシドニーで定着し、老父母を自国から呼び寄せる形の移住が多かったためであり、マレーシア結果とは異なり、現地との繋がりが強かったことが分かる。

第二としては、老後や家族観に関する調査結果として、経済的・健康的自立度が高ければ高いほど、家族からの援助(金銭的・扶養などのサポート)を求めなくても、無論、家族からの補助があれば助かるとは思うが、自分の老後生活は十分だという意見が多かった。これは、特に子女からの呼び寄せの高齢者移住の場合は、移住の決定要因には強い「家族観」が見られるものの、実際には、昔のような伝統的な価値観のように、老父母の扶養というものを家族だけに託すものではなく、年金などの介護の社会化により、昔の高齢者に比べたら医学発達などにより健康であり、高齢者自身が十分な経済的・健康的な自立を図るようになったことによるものだと思われる。詳細に結果を見ると、健康面では、去年、脳梗塞を経験した一人を除いて、全員「とても健康」(2人)「やや健康」(3人)という自己判断をした。家族との同居については、日本・韓国の一人ずつを除いては、他には子女とは同居していない(一人のインフォーマントは同じ敷地内で居住、ただし同じ屋根ではない)ことが分かった上、今後も家族との同居を求めてもいない。また、年齢が比較的に若くまだ年金受給年齢ではない1人を除いて、全員(市民権者:オーストラリア政府からの年金(韓国から2人)、他の永住権者:日本政府からの年金)が年金で生活をしていて、「年金+他収入(就業・家賃料)」、「年金+銀行金利」、「年金+家族からの援助」として営んでおり、主に「年金の範囲」での生活を行っていることが分かる。

第三としては、 インフォーマントが 全般的に抱えている生活上の諸問題点としては、言語の問題が挙げられる。流暢に話せる(1人)・日常会話程度(1人)を除いては、簡単な会話程度やまったく出来ないというケースが多くて、この問題は、実際に高齢者とは欠かせない「医療サービス」などを利用する際にも大きな不便にも繋がっている。また、すでに市民権を取得している2人を除いては、永住権を有しているにも関わらず、高い医療費用や言葉などのことで、医療サービスの満足度に関しては意見が個人差を見せ、その評価が分かれていることが分かる。

最後としては、地域間の協力・統合との関係に関わることとしては、送り出す国と受け入れる国との高齢移住者に対する政策などの協力が求められる。上記のように、高齢移住者たちは主に年金の範囲で生活をしていることが分かる。このように老父母に対する扶養というものが家族から社会へと拡大しているから、該当政府や社会の役割も増大するものと思われる。特に、日本から年金を送金してもらっているケースの一事例として、海外への送金ということで為替レートの影響が大きいため、年金生活をしている立場としては常に最大の不安要素だとする。また、専門家などの意見によると、毎年、日本と韓国からオーストラリアへの移住者、留学生やワーキングホリデーなどのタイプの人々が増加推移であり、このような人々が現地で定着する可能性が多くなると、今回のような形の老父母を呼び寄せるタイプの移住や、それにアメニティを求めて移住してくる高齢者も益々増えると予想した。従って、送り出す国や受け入れる国の立場からすると、このような社会からの助けを必要とする高齢者たちの流出・流入は様々な機会と危険を伴うものなので、高齢移住者に対する政策や待遇などに関し、これからの両国の協力は益々重要な課題になると思われる。



事業推進担当者


成果報告書


前のページへ戻る