研究成果

政治統合とアイデンティティ

研究:セミナー・ワークショップ

政治領域研究会 「アジアの平和構成要因に関する研究」

2010.03.02

開催概要

  • 日時: 2010年3月2日(火)10:30 - 14:10
  • 場所: 早稲田大学19号館 501教室
  • 参加者: 植木(川勝)千可子(早稲田大学アジア太平洋研究科教授)、KIM Yu-Eun(漢陽大学校教授)、 勝間田 弘(早稲田大学アジア太平洋研究センター助教)、 上久保 誠人(早稲田大学アジア太平洋研究センター助教)、 本多 美樹(早稲田大学アジア太平洋研究センター助教)、 Christian Wirth(GIARI RA)、 大平 剛史(GIARI RA)、 Amin Bin Baki(GIARI RA)、李 承宰(早稲田大学アジア太平洋研究科)ら10名。


研究会の目的

東アジアは、民主主義の国と非民主主義の国が混在し、さらに歴史的な対立関係も続いている。また、竹島・独島、尖閣・釣魚島を巡る領土問題も存在する中で、軍備増強を図る国々もある。加えて、地域制度も存在しない。これらは、いずれも、国際関係の理論が軍事紛争の原因として挙げているものばかりだ。しかし、そのような状態であるにもかかわらず、東アジアでは朝鮮戦争休戦以来、大規模な軍事紛争はなく、50年以上に渡る平和が続いている。これは、ヨーロッパにおける平和の期間に匹敵する。つまり「平和」が長期にわたり保たれていると考えられる。

ここで、注目すべきことは、欧米を中心に発展してきた統合理論、協力理論が示唆する統合・協力の要因・メカニズムと、アジアにおける統合を可能にする要因が必ずしも一致しない可能性があるという点である。本研究会は、既存の国際関係理論では、十分に説明がつきにくい東アジアにおける紛争の不在の原因を考察することを通じて、アジア統合が可能にするメカニズムの特定、さらには、統合理論・協力理論そのものの修正・発展を試みるものである。


第3回ミーティングの概要

政治領域グループの研究課題「アジアの平和構成要因に関する研究」の第3回目の研究会である。1994年朝鮮半島第一次核危機に際しての各国の紛争制御行動など基本的な情報の整理と理解を目的に、Joel S. Wit, Daniel B. Poneman, and Robert L. Gallucci, "Going Critical: The First North Korean Nuclear Crisis" (The Brookings Institution, 2005) のグループ・リーディングをおこなった。その際に、Agent-structure問題を念頭におき、危機の構造的な要因とアクターの選好、意図について分析を加えた後、質疑応答をおこなった。

この結果、第一次核危機の「危機回避」の要因として、以下のように幾つかの示唆を得た。
まず、北朝鮮も他の関係国もそれぞれの合理的選択に基づいて行動したため、抑止のロジックが効果的に働いた。しかし、パワーとしては米韓日が大きく優位であるという点が確認された。第二に、日本、韓国、米国は北朝鮮との戦闘の準備を始めていたが、戦争に発展した場合の関係国全員が負う経済的コスト、人的コストが大きすぎると予測されたため、結局は回避に動いたと考えられる。第三に、非国家アクター(エージェント)による戦争回避への役割・動きが鍵を握ったことが確認された。

今後は、衝突回避の要因、メカニズム、エージェント(actors)の役割と制御行動について引き続き検討する。特に、エージェント(actors)の役割については、政治領域のメンバーが各々の専門分野に引きつけて分析をおこなう。具体的なエージェントとして、おもに、IAEA、国連、カーターおよびクリントン元米大統領、韓国などが考えられる。
それから、戦争に発展した場合の関係国全員が負う経済的コスト、人的コストが大きすぎると予測されたため、結局は回避に動いたと思われるが、コスト計算がリスク回避に触れている傾向があるのかについて検討する必要がある。

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