研究成果

社会統合とネットワーク

研究:セミナー・ワークショップ

社会領域研究会 (共催:現代政治経済研究所 旧社会党文書プロジェクト)

2010.04.09

概要

  • 研究会: 社会領域研究会 (共催:現代政治経済研究所 旧社会党文書プロジェクト)
  • 司会: 平川幸子(GIARI助教)
  • 報告者:
    1. 平川幸子(GIARI助教)『1950 年代アジア地域主義の動向〜アジア社会党会議に関連して〜』
    2. 劉曙麗 (GIARIアジア特別フェロー・RA)『「アジア地域統合」の立場形成の決定要因についての分析と比較―日本人学生を中心に―』
    3. 討論者: 舒旻 (早稲田大学高等研究所、GIARIシニアフェロー)
  • 日時: 2010年4月9日(金)18:00 - 21:00
  • 場所: 早稲田大学19号館 314教室
  • 参加者: 梅森直之(早稲田大学政治学研究科教授)、篠田徹(早稲田大学社会科学部教授)、黒田一雄(早稲田大学アジア太平洋研究科教授)、河路絹代(学振特別研究員)ら約10数名。
Poster [214KB]

報告概要

第一報告

平川幸子 第一報告では、平川幸子が「1950年代アジア地域主義の動向〜アジア社会党会議に関連して」のテーマで報告を行った。本報告は、早稲田大学で現在、整理作業中の旧社会党文書にも関連する内容であることから、現代政治経済研究所のプロジェクトとの共催形式で行われた。

アジア社会党会議は1953年にビルマの首都ラングーンに、14カ国3団体、200名を超す社会主義者が集い、アジアにおける社会主義の原則と目的、アジアと世界平和の問題、アジア社会党会議の常設機関設置などを議題に10日間にわたって開催された会議であるが、関連先行研究は大変に少ない。そこで、本報告では、まず会議開催の経緯や概要を伝えるとともに、1950年代のアジアにおける地域主義の一般的動向を整理し、アジア社会党会議をどのように位置づければよいかについての検討を行った。

ひとつめの整理は、アジア社会党会議は、1947年のアジア関係会議に始まり1955年のバンドン会議という歴史的成果に至る地域内の内生的、自発的な地域主義の発展の中に位置づけることができるということである。アジア社会党会議を主催したビルマは、一連の動向をリードした非同盟中立路線を代表する社会主義国家であった。

一方、戦後世界の社会主義運動の流れからアジア社会党会議を捉えると、1947年に結成されたコミンフォルム(共産主義陣営)に対抗して、同年に結成された社会主義国際会議(コミスコ)が源流だといえる。コミスコは1951年に社会主義インターナショナルとして改組されたが、会議に参加したのはヨーロッパ諸国の社会党がほとんどであり、アジア諸国における社会民主主義や植民地解放運動などは議題として無視されただけでなく、共産主義に対抗し「自由主義陣営を守るため」の軍備を支持する方針が打ち出された。このことにアジア諸国の社会党は強く反発したのであった。つまり、アジア社会党は、反共産・非西欧として位置づけられる。

前年の準備会合(ビルマ、インド、インドネシア、オブザーバーとして日本)を経て1953年の本会議では、インターとの関係、「第三勢力」「中立」の概念などについて参加者の間で議論が対立した。結局、インターからは独立したアジア地域の会議機構設置を決議したものの、声明内容は具体性を欠く曖昧なものに留まった。

本報告は、この経過の中で最優先されたのは、「アジア」という地域原理、アイデンティティを示すことであったと結論した。そして最後に、この「アジア」とは何を指しているのかという新たな疑問を、報告者は提示した。経済的発展段階や人種を意味するのか?「平和」と同義なのか? 西欧とは違う「方法」としてのアジアなのか? 

これに対してフロアからは多くの意見が出された。レイシズムの要素が重要である、意味が平和であれ人種であれ「アジア」とは一種のモラル・スペースとして示された、「アジア」という立場に着目して戦前から戦後にかけて大東亜会議の例も含んだ思想史が描けるのではないか・・等々。それらを聞いて報告者が感じたのは、「アジア」という一体性は、一般的な国家主体の政治史ではなく、社会主義という一つの思想的立場を限っても現れてくるという事実であった。このことを、今後のアジア地域研究に生かしていきたいと思う。

(平川幸子)

第二報告

劉曙麗 第二報告では、劉曙麗が、『「アジア地域統合」の立場形成の決定要因についての分析と比較―日本人学生を中心に―』を題とし、世界市民意識、アジア人意識、国民意識、地元意識などの帰属意識などの要因はいかに「アジア地域統合」の立場の形成に影響を与えるかについての実証分析研究を発表した。

第一に、地域統合への意見形成と重要な関わりとなった人々の意識についての先行研究を踏まえながら、それぞれに妥当性と矛盾している所を指摘し、民族主義、ナショナリズム、国民アイデンティティー、アジア人アイデンティティーなどの個人意識についての概念を整理し、また検証分析する必要性を提示した。

次に、実証分析の枠組みを構築し、実証分析のデータと変数を詳しく紹介してから、(1) 日本人学生全体、(2) 男女、出身地グループ、に分けた分析を比較し、推定結果を報告した。主な実証結果としては、日本人学生のアジア地域統合に対する立場形成において、より開かれた帰属意識(世界市民意識とアジア人意識)はプラスの影響、中立な立場よりも偏った意識(文化的優越感)や保守的な意識はマイナスの影響を与えている。それに加えて、国際能力の向上と年齢(学年)の上昇による正の効果があるということが確認された。

その一方、サンプルを男性、女性に、出身地を都市と地方に分けて検証した推定結果は、世界市民意識、文化的優越感と保守的な意識に関しては、都市圏・地方、男女とも総論と一致しているが、その他の要因は、出身の別や性別により同じ帰属意識を持っていても、アジア地域統合の立場形成に異なる影響を与えていることが分かり、全体とは異なる推定結果も多く確認された。

最後は、結果を踏まえて政策的インプリケーションにも触れ、データの制限により日本人学生を中心とした分析しか出来なかったという不足点と、今後の課題(アジア諸国の横断的な分析と比較)を提示した。

舒旻 報告後、コメンテーター舒旻先生を始め、活発な意見交換を行った。まずは、舒旻先生から以下四点のコメント、指摘を頂いた。

  1. 個人意識は地域統合の意見形成について、この論文は従来の叙述を主とした分析と比較してより高い実証性を確保することを試みた初めて研究として、高く評価されるべきである。
  2. 国民意識(国民アイデンティティー)を中立の帰属意識として定義、非中立的な意識(文化的優越感と保守的な意識)と区別し、それぞれと独立な説明変数として実証を行った点も、同様に高く評価されるべきである。
  3. その一方、理論の面では、やや不十分さが残る。そのため、先行しているEUでの個人意識(アイデンティティー)と地域統合への意見形成について、参照できない可能性もある点が懸念される。
  4. 世界市民意識とアジア人意識の相関関数が0.44で、やや高いので、多重共線性を克服するため、主成分指数を作成することが望ましい。

黒田一雄 また、この他にも、梅森先生からアイデンティティの階層性に関して歴史的解釈の視点から、黒田先生から実証に関する技術面からのコメントや意見が出された。

(劉曙麗)



Summary


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